先に、要点をまとめます。
- 70歳代では男性の5人に1人、女性の10人に1人が日常生活に支障のある難聴を抱えていると推計されています(国立長寿医療研究センター「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」)。訪問理美容の現場でも、耳が遠い方への声かけの工夫は避けて通れないテーマです。
- 難聴・視力低下があっても、「認知症だから」「高齢だから」と一括りにせず、感覚機能の低下そのものへの配慮を分けて考えることが対応の起点になります。認知機能は保たれていても、聞こえ・見え方だけが低下しているケースは珍しくありません。
- 施術中ははさみ・かみそりなど刃物を使う場面があるため、「聞こえていない・見えていない」状態で急に触れると驚かせてしまうリスクが、身だしなみケア特有の注意点です。この驚きを防ぐ具体的な手順を、記事の中盤で整理します。
「母は認知症ではないのですが、耳が遠くて、訪問理美容の方が話しかけても生返事ばかりで、施術がうまく進まないことがあります」——介護りびようさーちに寄せられる相談の中には、こうした「認知症とは別の理由で、コミュニケーションがうまく取れない」という声があります。訪問理美容・出張美容の説明では「認知症の方への対応」が取り上げられることは多いものの、加齢に伴う難聴や視力低下そのものへの配慮は、意外と語られる機会が少ないテーマです。この記事では、認知症の有無にかかわらず起こり得る「聞こえにくさ」「見えにくさ」に対して、訪問理美容の当日にどう配慮すればよいかを整理します。なお、視覚・聴覚の低下がある方への配慮には、実は「刃物を使う施術ならではの注意点」という、他の生活支援サービスにはない固有の論点があります。この点は記事の後半で具体的に説明します。
高齢者の難聴・視力低下は、どれくらいの方に起きているのか?
70歳代では男性の5人に1人、女性の10人に1人が、日常生活に支障のある難聴を抱えていると推計されています。視力低下も加齢とともに進みやすく、多くの高齢者にとって珍しい状態ではありません。
国立長寿医療研究センターが実施した「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」によると、40dBを超える、日常生活に支障のある難聴を持つ方の割合は、70歳代で男性が5人に1人、女性が10人に1人にのぼると報告されています。加齢性難聴は、聴力に関係する有毛細胞や神経節細胞の働きが低下することで起こり、65歳を過ぎた頃から患者数が増加する傾向があるとされています。特徴として、高い音域から聞き取りにくくなるため、「大きな声で話しているつもりなのに、聞き取ってもらえない」という状態が起こりやすく、単純に声量を上げるだけでは解決しないことがあります。
視力についても、加齢に伴って白内障をはじめとする目の病気が増えることはよく知られています。訪問理美容の現場で重要なのは「何割の方が該当するか」という統計以上に、難聴も視力低下も、認知症とは別の要因で起こり得る、ごくありふれた加齢変化だという前提を持つことです。この前提を欠くと、「話が通じないから認知症かもしれない」という誤解や、逆に「認知症の方だから仕方ない」と感覚機能低下への配慮を後回しにしてしまう行き違いが起こりやすくなります。認知症そのものへの対応については、認知症の方が散髪を嫌がるときはどうする?のコラムでも触れていますが、この記事はその手前にある「感覚機能の低下」という切り口に絞って整理します。
耳が遠い方に、訪問理美容の当日はどう声をかければいいか?
正面から視界に入り、相手の注意がこちらに向いてから、普段より低めのトーンでゆっくりはっきり話しかけるのが基本です。大声で話すことは、かえって聞き取りにくさを招くことがあります。
難聴のある方とのコミュニケーションでまず押さえておきたいのは、「大きな声を出せば伝わる」とは限らないという点です。加齢性難聴は高い音域から聞こえにくくなる特徴があるため、声を張り上げると音がかえって割れて聞き取りづらくなることがあります。有効とされているのは、普段より少し低めの声で、ゆっくりはっきりと話すという方法です。
訪問理美容の施術に即して具体的に整理すると、次のような順番になります。まず、後ろやいきなり横から話しかけず、相手の視界に入ってから声をかけます。名前を呼ぶ、軽く手を振るなどして、こちらに注意が向いたことを確認してから話し始めます。次に、正面から向き合い、口の動きと表情が見える距離感を保ちます。マスクを着用している場合は、可能な範囲で口元の動きが伝わるよう工夫します。片耳だけに補聴器をつけている方には、補聴器をつけている側から話しかけることも基本の配慮です。
施術に入る前には、「これから髪を洗います」「次にカットに入ります」というように、次に何をするかを短い言葉で伝えてから動くことが特に大切です。これは、次のセクションで説明する「はさみ・かみそりを使う施術特有のリスク」に直結する配慮でもあります。声かけと同時に、椅子や道具に軽く触れてもらいながら説明すると、聴覚だけに頼らない伝わり方になります。
見えにくい方への配慮は、声かけとどう違うのか?
視力低下がある方には、声かけに加えて「今どこに何があるか」を具体的な言葉で伝え、触れる前には必ず一声かけることが基本になります。
視覚に配慮したコミュニケーションでは、聴覚への配慮と共通する部分と、異なる部分があります。共通するのは「いきなり触れない」という原則です。見えにくい方は、視覚からの予測ができない分、突然身体に触れられることへの驚きが、聴覚が保たれている方以上に大きくなることがあります。そのため、手を触れる前に「肩に触れますね」「タオルをかけますね」と一言添えてから触れることが基本になります。
異なる部分としては、空間の情報を言葉で補うという視点があります。「椅子はこちらです」「右手側にタオルを置きました」というように、位置関係を具体的な言葉で伝えると、見えにくい方にとって状況が把握しやすくなります。物を渡すときも、手のひらに軽く触れてから渡す、置いた場所を言葉で伝えるといった配慮が有効です。訪問先が普段と違う部屋になる場合や、施術のために家具を動かした場合は、その変化も必ず伝えるようにします。
見えにくさと聞こえにくさが両方ある方の場合、どちらか一方だけに配慮した対応では不十分になります。事業者に依頼する段階で、どちらの配慮がどの程度必要かを具体的に伝えておくと、当日のコミュニケーションの土台になります。訪問理美容の声かけ・対応全般の確認ポイントは、訪問理美容の声かけ・対応で見るポイントのガイドでも整理しています。
なぜ、はさみ・かみそりを使う施術特有の注意が必要なのか?
訪問理美容は、聞こえない・見えない状態のまま刃物が近づくと驚いて身体が動いてしまうリスクがある、他の生活支援サービスにはない特徴を持つためです。
ここで、冒頭で予告した「刃物を使う施術ならではの注意点」について具体的に説明します。食事の介助や入浴の介助であっても驚かせないことは大切ですが、訪問理美容・出張美容には、はさみやかみそりが顔や頭のすぐ近くを通るという固有の状況があります。聞こえにくい・見えにくい方が、次に何をされるか分からないまま不意に刃物の存在を意識すると、驚いて頭や顔を動かしてしまうことがあり、これがケガにつながるリスクになります。
このリスクを避けるための実務上のポイントは、次の3つに整理できます。第一に、刃物を使う直前には必ず一言添えることです。「はさみを使います」「かみそりで整えます」と、動作の直前に短く伝えます。第二に、施術の間、頭や顔に触れる位置を変えるたびに軽く声をかけることです。無言のまま位置を変えると、次にどこに触れられるか予測できず、緊張が続いてしまいます。第三に、急な動きを避け、一定のリズムで淡々と進めることです。声かけと動作のリズムが一定であれば、聞こえにくい・見えにくい方でも「次に何が起きるか」を身体で覚えていきやすくなります。
はさみ・かみそりを使う施術全般の安全確認ポイントは、はさみ・かみそりを使う施術の安全確認ポイントのガイドでも整理しています。事業者を選ぶ段階で、こうした配慮に慣れているかどうかを確認しておくことも、当日の安心につながります。
認知症がある方の場合と、対応はどう変わるのか?
認知症がある方への配慮と、感覚機能低下への配慮は重なる部分もありますが、「理解できているか」と「聞こえている・見えているか」は別の軸として考える必要があります。
認知症がある方への対応というと、「説明してもすぐに忘れてしまう」「見当識が混乱している」といった、理解や記憶に関する配慮が中心に語られがちです。一方、この記事で扱っている難聴・視力低下は、理解力そのものとは別の軸にある「感覚として情報が届いているかどうか」の問題です。
実際には、認知症があり、かつ難聴や視力低下も併せ持つ方は少なくありません。その場合、まず感覚機能への配慮(正面から視界に入る、聞こえる側から話す、触れる前に声をかける)を土台として整え、そのうえで認知症特有の配慮(短い言葉で伝える、一度に多くを説明しない、混乱したら無理に続けない)を重ねるという順番で考えると、対応が整理しやすくなります。感覚機能の配慮が抜けたまま認知症への対応だけを意識すると、「そもそも声かけ自体が届いていない」という土台の部分でつまずいてしまうことがあります。認知症の方への訪問理美容で確認すべき点は、認知症の方の訪問理美容で確認することのガイドに整理していますので、あわせてご確認ください。
事業者に依頼する前に、何を伝えておけばいいか?
「難聴がある・見えにくい」という事実に加えて、普段どのように配慮されているとスムーズかという具体的な情報を、問い合わせの段階で伝えておくと当日の行き違いが減ります。
依頼する事業者への情報提供は、次のような具体性があると役立ちます。
| 伝えるとよい情報 | 具体例 |
|---|---|
| 感覚機能の状態 | 「両耳とも難聴があり補聴器は未使用」「右目は白内障で見えにくい」 |
| 普段のコミュニケーション方法 | 「ゆっくり話せば聞き取れる」「筆談も可能」 |
| 驚きやすさの程度 | 「不意に触れられると身体が硬直しやすい」 |
| 家族が同席できるか | 「初回は家族が付き添える/付き添えない」 |
こうした情報を、電話やメールで依頼する段階から具体的に伝えておくと、事業者側も当日の進め方をあらかじめ準備しやすくなります。逆に、当日いきなり「実は耳が遠くて」と伝えるだけでは、事業者側が声かけの間合いを掴むまでに時間がかかってしまうことがあります。届出・資格の確認方法とあわせて、こうした対応実績についても事前に確認しておくと安心です。
家族が同席する場合、どんな役割を担うとよいか?
家族は「普段の伝わり方の通訳役」として同席すると、事業者と本人の間の橋渡しが自然に進みます。
家族が施術に同席できる場合、担える役割は主に2つあります。ひとつは、初回の依頼時に伝えた情報を、当日あらためて事業者に一言確認しておくことです。「今日はこちら側の耳の方が聞こえやすいです」というように、その日の体調によって変わる部分を補足できます。もうひとつは、事業者の声かけがうまく伝わっていないと感じたときに、普段の呼びかけ方や合図の仕方を横から伝える役割です。「いつもはこう呼びかけると振り向いてくれます」というような、家族だからこそ知っている伝わり方のコツは、事業者にとって当日すぐに使える情報になります。
家族が毎回同席できるとは限らないため、施設に入居している場合は、担当の介護職員が同じ役割を担うこともあります。ケアマネジャーや施設スタッフとの連携のしかたは、ケアマネジャー・施設スタッフとの連携のガイドでも整理しています。
なお、感覚機能の低下だけでなく、がん治療に伴う脱毛やウィッグ着用など、施術時に配慮が必要な事情は他にもあります。がん治療中の脱毛・ウィッグ、訪問理美容師にできることと医療機関に相談すべきことでは、訪問理美容師が対応できる範囲と医療機関に相談すべき範囲の線引きを整理しています。
配慮がうまくいっているかを確認する方法はあるか?
施術後に「今日の進み方はどうでしたか」と本人・家族の双方に聞き、次回への申し送り事項として残しておくことが確実です。
配慮が実際に伝わっていたかどうかは、施術中の様子だけでは判断しきれないことがあります。特に難聴がある方は、聞こえていなくても表情を合わせてうなずくことがあり、「伝わっているように見えて実は伝わっていなかった」というケースが起こり得ます。
そのため、施術後に本人・家族の双方へ「今日の声かけの間合いはちょうどよかったか」「驚いた場面はなかったか」を確認し、次回に向けた申し送り事項として記録しておくことが有効です。同じ事業者・同じ担当者に継続して依頼する場合、この積み重ねが「うちの母にはこの間合いが合う」という個別の型を作っていきます。担当美容師・理容師を継続して指名したい場合の頼み方は、担当美容師・理容師の指名や変更の頼み方のガイドで解説しています。
上図のように、①視界に入ってから声をかける、②感覚状態を事前に共有する、③動作の直前に一声添える、④施術後に伝わり方を確認する、という4つのステップを一巡させることで、感覚機能の低下がある方への配慮を当日だけでなく継続的な関係の中で積み上げていくことができます。
この記事で持ち帰れること
- 難聴・視力低下は認知症とは別の軸にある、多くの高齢者に起こり得る加齢変化だという前提。70歳代で男性5人に1人・女性10人に1人が日常生活に支障のある難聴を抱えるという実測を踏まえて、決して珍しい状態ではないと判断できます。
- 訪問理美容特有の注意点として、刃物を使う施術では「触れる前・動作の直前に一声添える」ことがケガの予防に直結するという具体的な配慮の手順。
- 依頼前に感覚機能の状態と普段の伝わり方を具体的に事業者へ伝えておくことが、当日の行き違いを減らす一番の近道だという判断基準。
まずは今日、ご家族の普段の様子を振り返って、「聞こえにくいのはどちらの耳か」「見えにくいのは近くか遠くか」を簡単にメモしてみてください。それだけでも、次に事業者へ相談するときの材料になります。
配慮に慣れた事業者を探す際は、介護りびようさーちで対応可能な状態や資格・届出の状況から絞り込んでみてください。届出・資格の確認方法は届出・資格の確認方法のガイドで整理しています。ご不明な点があれば、お問い合わせからご相談ください。

