先に、要点をまとめます。
- 出張理容・出張美容は「誰でも自由に頼めるサービス」ではなく、理容師法施行令・美容師法施行令で対象となる条件が定められています。2026年3月26日、厚生労働省がこの対象範囲を明確化する通知を発出しました。
- 対象の中心は「疾病その他の理由により理容所・美容所へ来ることができない者」で、寝たきり・認知症・障害・高齢による身体機能の低下などが該当します。単に「外出が面倒」という理由では対象になりません。
- 育児や重度の要介護状態にある家族を常時介護していて家を空けられない方も対象に含まれることが明確になりました。利用者本人だけでなく、介護をしている家族側の事情も対象になり得るという点は見落とされがちです。
「訪問理美容を頼みたいけれど、うちの親の状態でも対象になるのだろうか」「そもそも、誰でも申し込めるサービスではないと聞いたけれど、基準がよく分からない」——介護りびようさーちに寄せられる質問の中でも、こうした「対象になるかどうか」という入り口の疑問は少なくありません。訪問理美容・出張美容は、実は理容師法・美容師法という法律の枠組みの中で「特別な事情がある場合に限り」認められている出張サービスです。この記事では、2026年3月に厚生労働省が発出した最新の通知をもとに、対象となる条件を整理します。なお、この通知には、これまで曖昧だった「家族を介護している側の事情」についても触れられている点があり、記事の後半で詳しく取り上げます。
出張理容・出張美容は、そもそも誰でも頼めるサービスなのか?
いいえ。理容師法施行令・美容師法施行令に基づき、法令で定める特別な事情がある場合に限り認められる出張サービスです。
理容師法・美容師法では、公衆衛生の観点から、理容行為は理容所で、美容行為は美容所で行うことが原則とされています。出張理容・出張美容は、この原則に対する例外として、法令で定める特別の事情がある場合に限り認められています。つまり「お店に行くのが面倒だから」「近くに店がないから」といった一般的な理由だけでは、制度上の出張理美容の対象にはなりません。
この対象範囲を定めているのは、平成28年3月24日付けの厚生労働省課長通知(生食衛発0324第1号)です。2026年3月26日、厚生労働省がこの課長通知を一部改正する通知(健生衛発0326第1号)を発出し、あわせて衛生管理要領の一部改正について(健生発0326第1号、免許証の携行・提示を新たに求める内容)も示されました。今回の改正では、演劇・演芸・テレビ出演の直前施術という区分の追加だけでなく、「勤務環境の都合で外出する時間を確保できない場合」「育児・介護と業務の両立が難しい場合」という2つの区分が新たに加わっており、対象の幅そのものが広がっています(詳しくは後述します)。高齢・要介護状態にある方への対応や、育児・重度介護をしている家族側の事情という骨格自体は平成28年の課長通知から変わっていませんが、「対象が大きく広がった」という受け止め方は、今回に限っては的外れではありません。介護りびようさーちが対象とする訪問理美容・出張美容の事業者は、この制度の枠組みの中でサービスを提供しています。
なお、免許証の携行・提示が新たに求められるようになった点は、利用者側にとっても確認の目安になります。訪問理美容・出張美容の事業者に施術を依頼する際、資格を持つ理容師・美容師本人が担当しているかどうかを、免許証の提示を求めて確認することができるようになったということです。これまでも理容師・美容師でなければ理容行為・美容行為を行うこと自体が法律違反でしたが、利用者側から資格の有無を確認する具体的な手段が制度上明記された点は、事業者選びの安心材料のひとつとして押さえておく価値があります。制度の全体像(法的根拠・届出の実務フロー・医療的ケアとの線引きまで含む基本のまとめ)は訪問理美容・出張美容とは?制度と届出の基本で解説しています。
高齢・介護を理由に対象になるのは、具体的にどんな状態か?
疾病、骨折、認知症、障害、寝たきり等の要介護状態にあり、その状態や生活環境からみて理容所・美容所へ来ることが社会通念上困難と認められる方が対象です。
介護りびようさーちの利用者にとって最も関係が深いのが、この「疾病その他の理由により理容所・美容所に来ることができない者」という区分です。通知では、次のような状態にある方、またはこれと同等と判断される方が対象として挙げられています。
- 病院等に入院していて施設から出ることができない方
- 医師から自宅安静を指示され、自宅から出ることができない方
- 身体の障害や高齢のため、身体を動かすことが困難な方
- 認知症や記憶・意識障害等のため、理容所・美容所の椅子にじっと座って施術を完了することが困難な方
ここで大切なのは、「要介護認定を受けているかどうか」だけで機械的に判定されるわけではないという点です。通知が重視しているのは、あくまで「その方の状態や生活環境に鑑みて、社会通念上、理容所・美容所に来ることが困難かどうか」という実態です。認知症については、単に診断名がついているかどうかではなく、「椅子にじっと座って施術を完了することが困難」という具体的な状態像が示されています。落ち着いて座っていられる認知症の方であれば、必ずしも来所が困難とは限らない、という読み方もできます。迷う場合は、事業者に本人の普段の様子(座位を保てる時間、移動の可否、疲れやすさなど)を具体的に伝えて相談するのが確実です。なお、「病院等に入院していて施設から出ることができない方」に該当する場合、実際に病院へ訪問理美容を呼ぶには、自宅への訪問とは別に病院側の許可を確認する手順が必要になります。具体的な進め方は入院中の散髪はどうする?病院で訪問理美容を利用する方法と許可の取り方で整理しています。
家族を介護・育児している側の事情も、対象になり得るのか?
なります。常時、乳幼児の育児や重度の要介護状態にある家族を介護していて、その家族を残して外出することが難しい方も対象に含まれます。
ここで冒頭にお伝えした点に触れます。出張理容・出張美容の対象というと「施術を受ける本人の状態」だけを考えがちですが、通知にはもうひとつの区分があります。それは、自宅等で常時、家族である乳幼児の育児や、重度の要介護状態にある高齢者等の介護を行っている方であって、他の家族の援助や行政等のサービスを利用することが難しく、仮に理容所・美容所へ行くために介護を受けている家族を残して外出した場合、その家族の安全確保が難しくなると認められる方です。
これは、たとえば「自分が理容所に行っている間、目を離せない状態の家族を一人にできない」という介護者自身の事情が、出張理美容を利用できる理由になり得ることを意味します。訪問理美容というと「施術を受ける高齢者本人のためのサービス」というイメージが強いですが、介護をしている家族の側の生活の事情も、制度上は考慮の対象になっているという点は、意外と知られていません。
2026年3月の改正で、新たにどんな区分が加わったのか?
「勤務環境の都合で外出する時間を確保できない場合」と「育児・介護と業務の両立が難しい場合」という2つの区分が新設され、施術を受ける本人が高齢者・要介護状態でなくても対象になり得る道が明確になりました。
ここが今回の改正で最も実質的に変わった点です。2026年3月26日の一部改正では、従来の「疾病その他の理由により来所できない者」「常時、育児・重度介護をしている家族がいる方」に加えて、次の2区分が新たに明記されました。
- 勤務環境による外出困難: 常時対応が求められる業務や勤務環境にあり、理容所・美容所の営業時間中に外出する時間を確保することが困難な場合
- 育児・介護と業務の両立: 家族の育児や介護に加え、時間的に拘束される業務を行っており、外出する時間を確保することが困難な場合
前者は、高齢・要介護状態や育児・介護といった事情がなくても、仕事の都合そのものを理由に対象になり得る区分です。後者は、これまでの「育児・介護をしている家族の事情」の区分に、「かつ仕事もあるため、より外出が難しい」という要素を重ねた整理といえます。この2区分の追加により、出張理美容の対象は、これまでの「高齢者ケア・育児・介護」という枠を超えて、就労状況そのものを理由にする道が制度上はっきりしました。
介護りびようさーちの読者にとって直接関係が深いのは引き続き「疾病その他の理由により来所できない者」の区分ですが、たとえば「日中は仕事をしながら夜間・休日に家族の介護をしている」というケースでは、この新設区分と従来の育児・介護区分の両方に当てはまる可能性があります。事業者に相談する際は、高齢の家族の状態だけでなく、依頼する側(家族)の勤務状況もあわせて伝えておくと、対象の判断がしやすくなります。
施設に入居している場合は、誰でも対象になるのか?
養護老人ホーム等の社会福祉施設に入所・通所している方が対象で、施設の職員や来訪者、自力で理容所・美容所に行ける方は対象に含まれません。
介護施設に入居している方への出張理美容には、別の区分が設けられています。養護老人ホーム、児童養護施設その他これらに類する施設(社会福祉法に規定する第一種・第二種社会福祉事業を行う施設)で施術を行う場合が対象です。ただし、この区分にも線引きがあります。次に該当する方は対象に含まれません。
- 社会福祉施設等の従事者(職員)
- 社会福祉施設等の来訪者(面会者等)
- 施設に入所・通所していても、自ら理容所・美容所に行くことができる方
- 家族や介護者等の援助・協力により理容所・美容所で施術を受けることができる方
つまり、施設に入居しているという事実だけで自動的に対象になるわけではなく、実際に外出して理容所・美容所を利用することが困難かどうかが判断の軸になります。施設が出張美容室を導入する際は、この区分に基づいて対象者を整理する必要があるため、施設側の担当者にとっても押さえておきたいポイントです。
婚礼・行事の場合の対象は、高齢者ケアの場合とどう違うか?
婚礼その他の儀式に参列する方に、その儀式の直前に施術を行う場合も対象です。演劇・演芸・テレビへの出演直前の施術も同様に扱われます。
高齢者・要介護状態の方への対応とは別に、婚礼その他の儀式に参列する方への「儀式の直前」の施術も、出張理美容の対象として定められています。通知では、演劇・演芸・テレビに出演する方等への、出演直前の施術も同じ考え方に含まれると整理されています。ただし、催事場や写真館での施術は、この区分には含まれません。あくまで「儀式・出演の直前」という時間的な制約がある場合が対象です。この区分は、施設入居者やご家族の日常的な整容ケアとは性質が異なる話ですが、「出張理美容=特別な事情がある場合に限られる」という制度の考え方を理解するうえでは、あわせて知っておくとよい区分です。
判断に迷うグレーゾーンは、誰が決めるのか?
本サイトや事業者が独断で「対象外」「対象内」と断定するのではなく、状態が分かりにくい場合は、事業者への相談やケアマネジャー・かかりつけ医への確認を挟むのが安全です。
ここまで見てきたように、対象の判断軸は「診断名」や「要介護度」だけで機械的に決まるものではなく、「その方の状態・生活環境からみて、来所が社会通念上困難かどうか」という実態に即した判断が求められます。このため、次のようなケースは判断に迷いやすいグレーゾーンです。
- 要介護認定は受けていないが、高齢による身体機能の低下で外出に強い負担がかかる方
- 認知症の診断はあるが、比較的落ち着いて過ごせる時間帯もある方
- 家族の介護をしているが、短時間なら別の家族や事業者に頼める場合がある方
こうしたケースについて、介護りびようさーちや掲載事業者が一方的に「対象です」「対象外です」と断定することはありません。まずは事業者に本人・ご家族の具体的な状況を伝えて相談し、必要に応じてケアマネジャーやかかりつけ医にも確認しながら判断を進めるのが実務的な進め方です。なお、この記事で扱う対象範囲の話は、あくまで理容師法・美容師法上の出張理美容の可否についてであり、医療的ケアの要否とは別の話です。糖尿病による足病変の処置や巻き爪の医療的な処置、歯科衛生士が担う口腔ケア、訪問介護・訪問入浴が担う入浴介助は、対象の可否にかかわらず訪問理美容の対象外で、医療機関・訪問看護・訪問介護等が担う領域です。境界が分かりにくい場合は、サイト側や事業者が独断で判断せず、必ず主治医や専門職への確認を挟んでください。
対象になりそうだと分かったら、次に何をすればいいか?
対象になり得る状態が整理できたら、実際の依頼の流れや、事業者への確認事項を押さえて準備を進める段階に移ります。
ここまでの整理で「うちの家族は対象になりそうだ」と見当がついたら、次は実際に依頼する段階です。訪問理美容・出張美容は介護保険の対象外の自費サービスで、費用は施術メニュー・出張距離等によって変わります。市区町村によっては別枠で費用の助成制度を設けている場合もあり、対象要件は訪問理美容に自治体の助成はあるかのコラムで整理しています。あわせて、複数の事業者を比較する際のポイントは訪問理美容の事業者選びで失敗しないための5つの比較ポイント、行事に合わせて依頼するタイミングの目安は敬老の日・お盆・法事…行事や面会の前に訪問理美容を準備するタイミングと確認事項のコラムをご覧ください。
対象範囲を図で整理する
ここまでの内容を、出張理容・出張美容の対象となる7つの区分として図に整理します。
- 疾病その他の理由により来所困難な方: 寝たきり・認知症・障害・自宅安静指示等により、社会通念上、理容所・美容所に来ることが困難な方
- 常時、育児・重度の要介護状態にある家族を介護している方: 家族を残して外出することが難しい方
- 勤務環境による外出困難(2026年3月新設): 常時対応が求められる業務や勤務環境で、営業時間中に外出する時間を確保できない方
- 育児・介護と業務の両立(2026年3月新設): 育児・介護に加え時間的拘束のある業務を行い、外出する時間を確保できない方
- 社会福祉施設の入所・通所者: 自力で来所できず、家族等の援助でも来所が難しい方(職員・来訪者は対象外)
- 儀式参列者・出演者: 婚礼その他の儀式、演劇・演芸・テレビ出演の直前に施術を行う場合
- 船舶の乗組員: 港湾に停泊中で理容所・美容所に行けない場合
寝たきりの状態にある方が対象に含まれることは前述のとおりですが、実際に依頼したとき、当日はどのような順番で施術が進むのか気になる方も多いはずです。体位の確認や医療的ケアとの境界も含めた当日の流れは、寝たきりの方への訪問理美容、当日はどう進む?体位と医療的ケアの境界のコラムで詳しく整理しています。
この記事で持ち帰れること
- 出張理容・出張美容は「特別な事情がある場合に限り」認められる制度であり、単なる外出のおっくうさでは対象にならないという前提
- 対象は「疾病・要介護状態等で来所困難な本人」だけでなく、常時介護・育児をしている家族側の事情、さらに2026年3月の改正で新設された「勤務環境による外出困難」「育児・介護と業務の両立」も含まれるという最新の対象範囲
- 判断に迷うグレーゾーンは、サイトや事業者が独断で決めず、事業者への相談とケアマネジャー・かかりつけ医への確認を組み合わせて進めるという具体的な行動基準
まずは今日、ご家族の普段の様子(外出時にどれくらい負担がかかるか、椅子に座っていられる時間、介護から離れられる時間があるか)を、簡単にメモしてみてください。そのメモが、事業者に相談するときの最初の材料になります。
対象になるかどうかを確認したうえで、実際に事業者を探す際は、地域・施術メニューから事業者を探す使い方や、訪問理美容師・美容師の選び方のガイドもご活用ください。医療的ケアとの境界について詳しく知りたい方は、対象事業者とサービス範囲|医療的ケアとの線引きをご確認ください。爪切りについても同じように「誰が対応できるか」の線引きがあり、高齢者の爪切り、誰に頼める?家族・介護職・フットケア事業者・医療機関の役割分担で整理しています。

