先に、要点をまとめます。
- 在宅酸素療法中の方でも、経管栄養中の方でも、訪問理美容は依頼できます。酸素マスクや経鼻カニューレ、栄養チューブに理美容師が直接触れる場面を避ければ、施術自体は問題なく進められます。
- 厚生労働省の通知(令和4年12月1日 医政発1201第4号)では、酸素マスク・経鼻カニューレの「装着準備」「片付け」「ずれた際に元の位置へ戻すこと」の一部が医行為でないと整理されていますが、この整理は介護職員等を対象にしたもので、理美容師の業務範囲を広げるものではありません。
- 実務上は、酸素吸入中のマスク・カニューレの着脱や、経管栄養チューブへの接触は避け、施術中にずれた場合はご家族・看護職員に対応してもらう、という運用が安全です。
「在宅酸素療法をしている父に、そろそろ散髪をお願いしたい。でも、カットの最中に酸素マスクがずれたらどうするのだろう」「胃ろうで栄養を摂っている母の髪を整えたいけれど、チューブに触れてしまわないか心配」——訪問理美容・出張美容を検討するご家族から、こうした具体的な不安の声をよく聞きます。医療的ケアがあること自体は依頼を諦める理由にはなりませんが、「施術中に何が起きるか」「その場面で誰が何をするか」を事前にイメージできていないと、当日になって双方が戸惑うことになります。この記事では、在宅酸素療法・経管栄養がある方の訪問理美容について、施術中に実際に起こりうる場面を具体的に取り上げ、それぞれで理美容師・ご家族・医療職の役割がどう分かれるかを整理します。
在宅酸素療法・経管栄養がある方でも、訪問理美容は依頼できるのか?
依頼できます。施術そのものは医行為ではなく、酸素マスクや経鼻カニューレ、経管栄養チューブに理美容師が直接触れる場面を避ければ、通常のカット・シャンプー等と同じように進められます。
前提として、理美容師(理容師免許・美容師免許の保有者)は医療職ではありません。酸素マスクの着脱や経管栄養チューブの操作そのものは、理美容師の業務範囲外です。ただし「医療的ケアがあるから施術できない」わけではなく、施術中に医療機器・医療用チューブに触れる場面をどう避けるか、触れずに済まない状況になったときに誰が対応するかを、事前に決めておけば依頼できます。
対象事業者とサービス範囲の基本的な線引きは、対象事業者とサービス範囲|医療的ケアとの線引きのガイドで整理しています。この記事では、その中でも在宅酸素療法・経管栄養に絞り、施術中に実際に起こりうる場面と、それぞれの対応を具体的に見ていきます。
厚生労働省の通知は、何を「医行為でない」と整理しているのか?
厚生労働省の通知(令和4年12月1日 医政発1201第4号)は、在宅酸素療法・経管栄養に関する一部の行為について、医師でなくても実施できる(医行為に該当しない)と整理しています。ただし、これは介護職員等を対象にした整理であり、理美容師の業務範囲を広げるものではありません。
通知が「原則として医行為ではない」と整理している範囲は、次のとおりです。
| 医療的ケアの種類 | 医行為でないとされる範囲(通知の整理) |
|---|---|
| 在宅酸素療法 | 酸素マスク・経鼻カニューレを装着していない状況下での、あらかじめ医師が指示した流量設定や装着の準備、酸素離脱後の片付け/加湿瓶の蒸留水交換や機器の拭き取りなどの環境整備 |
| 在宅酸素療法(注1) | 酸素流入中にマスク・カニューレがずれ、患者が自力で戻せない場合(肢体不自由・睡眠中・意識がない状態等)に、元の位置へ戻すこと |
| 経管栄養 | 経管栄養の準備・片付け(栄養剤等を注入する行為・注入を停止する行為を除く)/あらかじめ明示された貼付位置への経鼻胃管固定テープの再貼付(皮膚に発赤等がなく専門的管理を要しない場合) |
一方で、次の行為は通知でも医師・看護職員が行うものとされています。
- 酸素吸入の開始(流入が開始しているマスク・カニューレの装着を含む)
- 酸素吸入の停止(吸入中のマスク・カニューレの除去を含む)
- 経管栄養剤等の注入・注入停止そのもの
- 栄養チューブが正しく挿入されているかの確認、胃ろう・腸ろうの状態確認
ここで押さえておきたいのは、この通知はもともと介護職員等が日常のケアの中で行う行為を整理したもので、訪問理美容師を対象にしたものではないという点です。「介護職員ならできる」という整理がそのまま「理美容師も同じことをしてよい」という意味にはなりません。実務上は、理美容師が酸素マスク・カニューレ・栄養チューブに直接触れる場面そのものを作らないようにし、触れる必要が生じた場合はご家族・看護職員に対応してもらう、という運用が安全な目安になります。
カット中に酸素マスク・カニューレがずれたら、その場で何が起きるか?
その場で理美容師が位置を直すのではなく、いったん施術を止め、ご家族または訪問看護師に対応をお願いするのが基本の流れです。装着中のマスク・カニューレへの接触は、通知でも医師・看護職員・患者本人が行う範囲とされているためです。
シャンプーやカットの最中は、頭部やその周辺に手が伸びるため、酸素チューブや経鼻カニューレに衣類やタオルが触れてずれることがあります。このとき、理美容師が自分の判断でマスクやカニューレを元の位置に戻すことは避けるべき行為です。前述のとおり、通知の「注1」で医行為でないとされているのは、あくまで患者が自力で戻せない状況を想定した整理であり、そばにご家族がいる、あるいは訪問看護師が対応できる場面では、その方に直してもらうのが基本になります。
実務的な流れとしては、次のようになります。
- マスク・カニューレのずれに気づいたら、施術をいったん中断する
- ご家族(またはその場にいる医療的ケアの担当者)に声をかけ、位置を直してもらう
- 位置が戻り、本人の呼吸状態が落ち着いたことを確認してから施術を再開する
この一連の流れを当日その場で組み立てるのではなく、予約の段階で「マスク・カニューレがずれた場合はどなたに直していただけますか」と事業者から確認してもらう、あるいはご家族から先に伝えておくと、当日の対応がスムーズになります。訪問看護のスケジュールと訪問理美容の日程を近づけておくと、看護師が在宅している時間帯に施術を組めるため、より安心材料になります。
シャンプー・カットの最中、経管栄養チューブにはどう配慮するか?
経管栄養中(栄養剤を注入している最中)の施術は避け、注入が終わって片付けが済んだタイミングで施術を行うのが基本です。チューブの固定テープに理美容師が触れる必要が生じた場合も、貼り直しは行わず、ご家族・看護職員に対応してもらいます。
経鼻経管栄養の方の場合、栄養チューブは鼻から挿入され、頬や額に固定テープで留められています。シャンプーの際にお湯や泡がテープにかかると剥がれやすくなるため、次のような配慮が実務上の目安になります。
- 栄養剤を注入している最中の施術は行わない。注入・注入停止そのものは医師・看護職員が行う範囲であり、施術のタイミングと重なると対応が複雑になるため。
- シャンプーの際は、固定テープ周辺にお湯・泡がかからないよう、タオルやケープで保護する。
- テープが剥がれた・ずれたことに気づいたら、理美容師が貼り直すのではなく、その場にいるご家族・看護職員に対応してもらう。通知では「あらかじめ明示された貼付位置への再貼付」が医行為でないと整理されていますが、これも介護職員等を対象にした整理であり、理美容師が自己判断で行う行為ではありません。
胃ろう・腸ろうの方の場合は、腹部の管理部位に直接触れる場面自体が少ないため、シャンプー・カットへの影響は比較的小さくなりますが、体位によっては施術中の圧迫を避ける配慮が必要です。当日の体位確認の一般的な流れは、寝たきりの方への訪問理美容、当日はどう進む?のコラムでも整理していますので、あわせてご確認ください。
依頼前に事業者へ伝えておきたい4つの情報
「医療的ケアの種類」「日常の管理者」「施術中に想定される場面」「緊急時の連絡先」の4点を、問い合わせの段階で伝えておくと、当日の対応がスムーズになります。
具体的には、次の内容を整理しておくとよいでしょう。
- 医療的ケアの種類:在宅酸素療法か、経管栄養(経鼻・胃ろう・腸ろう)か、両方かを伝える。
- 日常の管理者:酸素流量の調整や栄養剤の注入を、普段は誰(ご家族・訪問看護師)が行っているかを伝える。
- 施術中に想定される場面:シャンプーの水がかかる可能性、体位変換の要否など、当日起こりうることを共有する。
- 緊急時の連絡先:施術中に体調変化があった場合に連絡する訪問看護ステーション・かかりつけ医の連絡先。
これらは、電話やお問い合わせフォームでの初回相談時に伝えることで、事業者側が対応可能かどうかを判断する材料になります。当日いきなり伝えようとすると、確認だけで時間がかかり、予定していた施術が一部見送りになることもあります。複数の事業者を比較しながら、医療的ケアへの対応方針を確認したい場合は、訪問理美容の事業者選びで失敗しないための5つの比較ポイントのコラムも参考にしてください。
施設に入所している場合と、在宅の場合で対応は変わるか?
基本的な考え方は同じですが、「その場で誰に対応してもらうか」の窓口が施設と在宅で異なります。施設では看護職員が常駐していることが多く、在宅ではご家族や訪問看護師のスケジュールに合わせた調整が必要になります。
介護施設に入所している場合、多くの施設で看護職員が日中常駐しているため、施術中に酸素マスク・カニューレのずれや栄養チューブの固定テープが剥がれるといった場面が起きても、その場で看護職員に対応してもらいやすい環境にあります。訪問理美容を依頼する際は、施術の予定時間帯に看護職員が対応可能かどうかを、事前に施設側(看護職員・ケアマネジャー)に確認しておくとよいでしょう。施設が出張美容室を導入するまでの流れは、施設が出張美容室を導入するまでの流れのガイドで詳しく解説しています。
在宅の場合は、日中ご家族が付き添えない時間帯もあるため、訪問看護のスケジュールと訪問理美容の日程をあらかじめ近づけておく、あるいはご家族が在宅している曜日・時間帯を優先して予約する、といった調整が必要になります。ケアマネジャーに相談すると、訪問看護・訪問介護など他のサービスとのスケジュール調整を含めて助言してもらえることが多く、窓口として頼りやすい存在です。他のサービスとの連携全般については、ケアマネジャー・施設スタッフとの連携のガイドも参考にしてください。
いずれの場合も、「医療的ケアに直接対応できるのは医療職・ご家族であり、理美容師はその場面を避けて施術を組み立てる」という役割分担の基本は変わりません。窓口となる人が施設の看護職員か、在宅のご家族・訪問看護師かが変わるだけだと捉えておくと、事前準備のイメージが立てやすくなります。
この記事で持ち帰れること
- 在宅酸素療法・経管栄養がある方でも、訪問理美容は依頼できること。ただし酸素マスク・カニューレ・栄養チューブへの接触は理美容師の業務範囲外で、その場面が起きたらご家族・看護職員に対応してもらうという役割分担
- 厚生労働省の通知(医政発1201第4号)は介護職員等を対象にした整理であり、理美容師にそのまま適用されるものではないという前提
- 依頼前に伝えておきたい4つの情報(医療的ケアの種類・日常の管理者・想定される場面・緊急時の連絡先)を揃えておくと、当日の対応がスムーズになるという見通し
まずは、普段の酸素流量の調整や経管栄養の注入を誰が担当しているか、そしてその方が訪問理美容の当日、同じ時間帯にいてもらえそうかを確認するところから始めてみてください。訪問看護の訪問時間に施術を合わせられそうか、ケアマネジャーや訪問看護師に一言相談してみるのもよい方法です。
訪問理美容の事業者を探す際は、医療的ケアへの対応方針を確認したうえで、営業エリアや資格・届出もあわせてご確認ください。ご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせください。

