ここで混同しやすいのが、「管理理容師・管理美容師を置いていない事業者は法令違反なのではないか」という不安です。結論から言えば、そうとは限りません。前述のとおり設置義務は「常時2人以上の理容所・美容所」が対象であり、そもそも設置義務が生じない事業形態が存在するからです。訪問理美容・出張美容には、店舗型の理容所・美容所とは別に、独自のルールが適用されます。
理容師・美容師は原則として、届出をした理容所・美容所以外の場所で業務を行うことはできません。ただし理容師法施行令・美容師法施行令は、政令で定める特別な事情がある場合に限って、施設外での施術(出張理容・出張美容)を認めています。多くの都道府県の案内では、認められる場合として次のようなケースが挙げられています。
- 疾病その他の理由により、理容所・美容所に来ることができない者に対して施術する場合(入院・在宅療養中の方など)
- 婚礼その他の儀式に参列する者に対して、その儀式の直前に理容・美容を行う場合
- 特別養護老人ホームその他これに類する社会福祉施設の入所者に対して施術する場合
- 停泊中の船舶の乗船者や、演芸等の出演者に対して直前に施術する場合
訪問理美容の事業者が高齢者施設や在宅の利用者へ出張して施術できるのは、この特例に該当するためです。この施設外施術を行う場合でも、事業者は理容師法第9条・美容師法第8条および各都道府県の施行条例が定める衛生上必要な措置(器具の消毒、客ごとの布片交換、清潔な作業衣の着用など)を、店舗での施術と同等に講じる義務があります。
注意したいのは、出張理美容にあたっての「届出」の要否が自治体によって異なる点です。事前に管轄保健所への届出を求める都道府県・市もあれば、届出は不要としつつ必要に応じて事前相談を促す自治体もあります。したがって「届出をしているか」を一律の基準にするのではなく、その事業者が営業する地域の保健所ルールに沿って運営されているかを確認する視点が実務的です。設置義務(管理理容師・管理美容師)と、出張理美容の届出・衛生措置は別々の制度であることを整理して理解しておくと、事業者への質問がぶれません。
なお、本記事が扱うのは理美容の衛生管理・許認可に関する枠組みであり、医療的な処置や判断は対象外です。爪や皮膚のトラブル、褥瘡(じょくそう)や医療的ケアが関わる可能性がある場合は、必ず医療機関・訪問看護・訪問介護等の専門職に相談してください。