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メイクセラピー(化粧療法)とは

Published
作成日: 2026年7月5日
Updated
最終更新日: 2026年7月7日

メイクセラピー(化粧療法)とは何かを、複数の公的機関・学術研究の定義を並記しながら解説する子記事。訪問理美容サービスとの関係、施設での導入確認手順、医療行為との違いも整理。

01メイクセラピー(化粧療法)とは何か

メイクセラピー(化粧療法)とは、メイクアップや整容のケアを通じて高齢者・障害者・療養中の方の心理面とQOL(生活の質)を向上させる、医療行為ではないケア手法です。

「メイクセラピー」と「化粧療法」はほぼ同義語として使われていますが、提唱する団体によって定義の重心が異なります。一般社団法人メイクセラピストジャパン(MTJ)は「心理学とメイクを用いて『なりたい自分になる』メソッド」と位置づけ、心理カウンセリングの手法とメイクアップ技法の組み合わせを重視しています。一方、資生堂は「クレンジングによる肌の清潔保持、唾液腺を刺激するスキンケアからメイクアップまでの一連の行為」と定義し、ADL(日常生活動作)の維持・向上という機能面を重視しています。公益社団法人国際化粧療法協会(ICA)は「病気や障がい、外見の悩みに対して化粧を施すことで、心身の健康や生活の質を向上させることを目的とした療法」とし、ケアウィッグやケアネイルも含むより広いケア技術群として位置づけています。

このように定義に幅があるため、施設や家族が「メイクセラピー」という言葉を目にしたときは、どの団体・どの資格者による、どういう内容の実施なのかを個別に確認することが大切です。

メイクセラピー(化粧療法)とは

02なぜ注目されているのか——学術的な裏付け

メイクセラピーが単なる美容サービスではなく介護・医療の現場で注目される背景には、学術研究による効果検証の蓄積があります。

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の阿部康二教授らのグループは、岡山大学病院、日本介護美容セラピスト協会と共同で、女性の認知症患者を対象にした臨床研究を実施しました。化粧療法実施群と非実施群を比較したところ、化粧療法の開始直後から認知症患者の情動機能(BPSDスコア=行動・心理症状の指標)が有意に改善することが確認されています。さらにAIによる顔解析を組み合わせ、見た目年齢の若返りと、特にADL障害が中等度の患者で「喜び」のスコアが増加することを世界で初めて確認したと発表されました(2021年2月、日本化粧療法学会第2回学術集会で発表、同年3月に岡山大学がプレスリリースを公開)。

この研究は、化粧療法が「気分転換」といった曖昧な効果ではなく、情動機能という測定可能な指標に働きかけうることを示した点で重要な一次情報です。ただし、これは特定の研究デザインの下での結果であり、「認知症が治る」「症状が必ず改善する」ことを保証するものではありません。効果には個人差があり、医療行為の代替にはならない点に注意してください。

03誰が行うのか——主な資格・認定制度

メイクセラピー・化粧療法には複数の民間資格・認定制度があり、施設やサービスを探す際の目安になります。代表的なものを整理します。

団体・制度主な資格名対象・特徴
一般社団法人メイクセラピストジャパン(MTJ)メイクセラピー検定(3級〜特級)、メイクケアセラピー(MC)級MC級は高齢者施設・デイケアでのボランティアや医療介護職員を想定。試験は「メイクセラピー基礎」と「メイクケアセラピー実践」の2科目
資生堂化粧療法ナビゲーター、化粧療法セラピスト+「資生堂 化粧療法講座」修了者が対象。ナビゲーターはオンライン試験、セラピスト+は対面試験でより高度
公益社団法人国際化粧療法協会(ICA)化粧療法士ケアウィッグ・ケアメイク(ブラインドメイク/カバーメイク)・ケアネイルの3分野で養成
日本介護美容セラピスト協会ビューティタッチセラピストスキンケア・メイク・マッサージ技法を組み合わせ、高齢者のQOL向上・自立支援を目的に養成。2020年9月時点で認定者1,938名

メイクセラピーを職業として、施設や個人宅で実際に「化粧」(美容師法上の美容行為に該当しうる行為)を行う場合は、これらの民間資格に加えて美容師免許が必要になるケースがあります。この点は都道府県の所管部局や事業者への確認が必要な法令事項のため、本記事では概要にとどめ、詳しくは「訪問理美容・出張美容とは?制度と届出の基本」を参照してください。

04施設・在宅ではどう提供されているか

メイクセラピーは、単独のセラピーとして提供される場合と、訪問理美容・出張美容サービスの一部として組み込まれる場合があります。

メイクセラピストジャパンは社会貢献事業として「介護福祉医療機関へのボランティア派遣」を行っており、施設入居者や身体障害者へのレクリエーションとしてのメイク、がん患者のアピアランスケア(外見支援)へのメイク活用にも取り組んでいます。国際化粧療法協会のケアメイク(ブラインドメイク=視覚障害者向け自力メイク技法、カバーメイク=皮膚の欠点を隠す技術)も、疾患や障害に応じた個別ニーズに対応する枠組みです。

一方で、日々のヘアカット・シェービングなどと合わせて「仕上げにメイクを行う」形で、訪問理美容・出張美容の事業者がメニューの一つとしてメイクセラピー的なケアを提供しているケースもあります。この場合、必ずしも上記の民間資格を持つ「セラピスト」ではなく、美容師が整容ケアの延長として実施していることもあるため、施設や家族が依頼する際は「誰が」「どの資格・研修を背景に」「どんな内容を」行うのかを事前に確認することが大切です。

05導入前に確認すべきこと(チェックリスト)

メイクセラピーを施設や在宅で導入する、あるいは家族として依頼を検討する場合は、次の点を事業者・実施者に確認しておくと安心です。

確認項目確認のポイント
実施者の資格・研修歴メイクセラピー検定、化粧療法ナビゲーター/セラピスト+、化粧療法士など、どの認定を保有しているか
美容師免許の有無化粧行為が美容師法上の「美容」に該当しうる内容を含む場合、美容師免許保有者が担当するか
実施の目的・内容レクリエーション目的か、ADL・情動面への働きかけを意図したものか、事前説明があるか
対象者の健康状態への配慮皮膚疾患・アレルギー・服薬状況など、事前のヒアリングやかかりつけ医への相談を行っているか
費用自費サービスであり、施術メニュー・出張距離により料金が変動する点を事業者に見積もりで確認する

特に皮膚に疾患がある場合や、体調面で不安がある場合は、メイクセラピーの実施前にかかりつけ医や訪問看護・訪問介護の担当者に相談することをおすすめします。メイクセラピーはあくまで美容・心理面のケアであり、医療的な診断・治療・処置は対象外です。

06医療行為ではない点への理解

メイクセラピー(化粧療法)は、心身のケアやQOL向上を目的とした美容領域のサービスであり、医療行為ではありません。岡山大学の研究のように情動機能の改善を示す学術データはありますが、これは特定の疾患の治療や診断に代わるものではなく、「認知症が治る」「症状が必ず改善する」と受け取るのは適切ではありません。

皮膚のトラブル、体調の急変、服薬管理などに関わる相談は、メイクセラピーの実施者ではなく、医師・看護師・訪問看護ステーション・ケアマネジャーなど医療・介護の専門職に相談してください。メイクセラピーは、こうした医療・介護の専門的なケアと並行して、生活の質を支える取り組みの一つとして位置づけるのが適切です。

07がん患者の「アピアランスケア」との関係

メイクセラピーは高齢者・認知症ケアの文脈だけでなく、がん治療中の方の「アピアランスケア」の一部としても活用されています。厚生労働省は、がんとの共生のあり方に関する検討会において、アピアランスケアを「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」と定義しています。抗がん剤治療による脱毛、皮膚の変色、爪の変化などの外見の変化は、患者の心理面や社会生活に大きな影響を与えるため、国はがん診療連携拠点病院を中心に、アピアランスケアに関する相談支援・情報提供体制の構築を進めています。

この文脈でのメイクセラピー(カバーメイクなど)は、皮膚の変色や傷跡を目立たなくする技術支援として位置づけられ、国際化粧療法協会のケアメイク(カバーメイク)や、メイクセラピストジャパンが取り組む「がん患者のアピアランスケアへのメイク活用」がこれに該当します。

また、東京都・埼玉県をはじめ多くの自治体が、がん治療に伴うウィッグや胸部補整具の購入・レンタル費用を助成する「アピアランスケア支援事業」を実施しています。ただし、こうした自治体助成の対象は多くの場合ウィッグや補整具の購入・レンタル費用であり、メイク用品やメイクセラピーの施術費そのものは助成対象外となっているケースが一般的です。助成の対象品目・条件は自治体ごとに異なるため、利用を検討する場合はお住まいの自治体のがん対策担当窓口やがん相談支援センターに直接確認することをおすすめします。

08どんな場面で依頼されているか——具体的なシチュエーション

メイクセラピーが依頼される場面は一様ではなく、対象者の状態や目的によって内容や配慮すべき点が異なります。ここでは代表的なシチュエーションを整理します。

認知症の方への実施では、岡山大学の研究のように、施設のレクリエーションや個別ケアの一環として実施されるケースがあります。本人の表情や情動面への働きかけを目的とすることが多く、無理に施術を進めず、本人の反応を見ながら短時間から始める配慮が現場では重視されています。認知症の進行度や当日の体調によって受け入れ方が変わるため、施設職員やケアマネジャーと事前に情報共有した実施者が担当することが望ましいとされます。

視覚障害のある方への実施では、国際化粧療法協会が養成する「ブラインドメイク」が知られています。これは視覚に障害のある方が自分の手の感覚だけでメイクができるようになることを支援する技法です。単に施術者がメイクを「してあげる」のではなく、本人が自分でできるようになることを目指す点が特徴です。

がん治療中の方への実施では、前述のアピアランスケアの文脈で、脱毛や皮膚の変色をカバーするメイク技術(カバーメイク)が用いられます。治療による肌質の変化やかつらとの兼ね合いなど、通常の美容とは異なる配慮が必要になるため、医療機関のがん相談支援センターと連携した実施者を選ぶと安心です。

看取り期・エンゼルケアの場面では、終末期や逝去後のケアの一環として、整容を整える目的でメイクが行われる場合もあります。この場面は家族の心情への配慮が特に重要であり、事業者によって対応可否や方針が異なるため、事前確認が欠かせません。

いずれの場面でも共通するのは、本人の意思確認と無理をしない姿勢です。本人が施術を望まない場合や体調不良のときは中止・延期する判断が必要であり、実施者にはその見極めができる経験・研修歴があるかどうかも確認のポイントになります。

09費用の考え方——介護保険との関係

メイクセラピー・化粧療法の費用を考えるうえで押さえておきたいのが、介護保険制度との関係です。

厚生労働省は2017年(平成29年)3月の通知「在宅の高齢者に対する理容・美容サービスの積極的な活用について」において、在宅高齢者への理容・美容サービスが生活の質(QOL)の維持・改善に資するとして、理容・美容業界に対し在宅高齢者への取り組みを依頼しています。ただし、これはあくまで理容師・美容師業界への協力依頼であり、訪問理美容や出張美容サービス自体が介護保険の給付対象になるという意味ではありません。訪問理美容・出張美容、そしてその一部として提供されるメイクセラピーは、原則として介護保険の給付対象外の自費サービスです。

例外として、訪問介護員(ホームヘルパー)の資格を持つ理容師・美容師が、訪問介護の「身体整容」の範囲内で整容ケアを行う場合は、介護保険の訪問介護サービスとして扱われることがあります。この場合は訪問介護としての介護報酬が適用されるため、出張理容・出張美容にかかる費用を別途徴収することはできない、という整理が厚労省の通知で示されています。メイクセラピーがこの「身体整容」の範囲を超えるメイクアップやカウンセリングを伴う場合は、通常、介護保険の枠外の自費サービスとして提供されることになります。

自治体によっては、訪問理美容の利用に独自の助成制度(利用券・補助チケットなど)を設けている場合がありますが、対象がヘアカット等に限られ、メイクセラピーは対象外となっているケースもあります。費用や助成の有無は事業者・自治体ごとに異なるため、具体的な金額や助成の適用可否は、依頼を検討している事業者や自治体の窓口に直接確認することをおすすめします。

FAQ

このガイドのよくある質問

業界内ではほぼ同義語として使われています。ただし提唱する団体によって定義の重心が異なり、メイクセラピストジャパンは心理カウンセリングとの組み合わせを、資生堂はADL(日常生活動作)維持を、国際化粧療法協会はケアウィッグやケアネイルも含む医療福祉ケア技術群として、それぞれ定義しています。名称だけでなく、どの立場からの定義かを確認すると理解しやすくなります。
岡山大学大学院と岡山大学病院、日本介護美容セラピスト協会の共同研究で、女性の認知症患者を対象にした臨床試験により、化粧療法の実施直後から情動機能(BPSDスコア)が有意に改善することが確認されています(2021年発表)。ただしこれは特定の研究における結果であり、症状の治癒や必ずしもの改善を保証するものではありません。
メイクセラピー検定(メイクセラピストジャパン)、化粧療法ナビゲーター/セラピスト+(資生堂)、化粧療法士(国際化粧療法協会)などの民間資格があります。加えて、施術内容が美容師法上の「美容」に該当する場合は美容師免許が必要になるケースがあるため、事業者に確認することをおすすめします。
実施者の資格・研修歴、美容師免許の有無、実施目的(レクリエーションかADL支援か)、対象者の健康状態への配慮、費用の見積もりの5点を事前に確認するとよいでしょう。皮膚疾患や体調面で不安がある場合は、実施前にかかりつけ医や訪問看護・介護の担当者にも相談してください。
事業者によっては、ヘアカットやシェービングなどの整容ケアの一環としてメイク仕上げを提供している場合があります。ただし専門資格を持つ「メイクセラピスト」による実施かどうかは事業者ごとに異なるため、依頼前に内容と実施者の資格を確認することが大切です。訪問理美容の制度全体については関連記事もあわせてご確認ください。

Sources

参照・確認する一次情報

制度や費用は変更されることがあるため、公式情報と事業所の資料を確認しながら更新します。

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