終末期・看取り期にある方への訪問理美容・出張美容サービスは、主治医や訪問看護と事前に連携し、体調面の確認が取れれば依頼できる場合があります。ここで重要なのは、「依頼できるかどうか」を本サイトや事業者が断定できるものではなく、あくまで個々の医療者による体調評価が前提になるという点です。厚生労働省は「在宅の高齢者に対する理容・美容サービスの積極的な活用について」という通知(生食衛発0313第1号、平成29年3月13日)の中で、在宅高齢者への理容・美容サービスは「心身をリフレッシュさせるなど生活の質(QOL)の維持、改善に資する」と明記しています。これは終末期に限定した通知ではありませんが、身だしなみを整えることが医療行為ではなく、本人のQOLを支える生活支援として公式に位置づけられていることを示す根拠になります。また、厚労省が2018年に改訂した「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」でも、終末期のケアチームには「疼痛やその他の不快な症状を十分に緩和し、患者・家族の精神的・社会的な援助も含めた総合的な医療及びケアを行う」ことが基本方針として求められています。ただし、このガイドラインが求める医療及びケアそのものは、あくまで医師・看護師など医療・ケアチームの役割であり、訪問理美容・出張美容はこれを代替したり一部を担ったりするものではありません。訪問理美容・出張美容は、医療・ケアとは別枠の非医療の生活支援サービスとして、身だしなみを整える時間を通じて本人と家族の「らしさ」を保つことに資すると位置づけられます。終末期は体調が急変しやすい時期でもあるため、依頼できるかどうかを判断する前には必ず医療者への確認と、事業所への詳細な情報共有が必要です。この記事では、その具体的な確認手順を解説します。
終末期・看取り期の身だしなみケア
- Published
- 作成日: 2026年7月6日
- Updated
- 最終更新日: 2026年7月7日
介護りびようさーちの子記事。訪問理美容における終末期・看取り期の身だしなみケアについて、厚労省通知や制度的根拠を踏まえ、事業者への確認事項・依頼手順を具体的に解説するガイド記事。
01終末期・看取り期でも身だしなみケアは依頼できるのか
02依頼前に必ず確認すべきこと(医療者・事業所それぞれの役割)
終末期の身だしなみケアを安全に進めるには、「医療的な可否判断」と「施術内容の調整」を分けて考える必要があります。まず医療的な可否判断は、訪問理美容・出張美容の事業者ではなく、主治医や訪問看護師に確認すべき事項です。具体的には、(1)座位・半座位・臥位のどの体勢まで負担なく取れるか、(2)施術時間の上限(体力的にどの程度まで持つか)、(3)酸素投与や点滴などの医療機器が施術の妨げにならないか、(4)当日の体調によって中止・延期の判断をどうするか、の4点は事前に医療者と共有しておくことをおすすめします。一方、事業所側に伝えるべきは、確認した医療情報をもとにした「具体的な施術条件」です。例えば「臥位のまま10分以内でシャンプーとカットのみ」「体位変換は訪問看護のタイミングに合わせる」といった条件を、予約時に電話や問い合わせフォームで具体的に伝えます。厚労省の出張理容・美容に関する制度(理容師法・美容師法に基づく衛生管理要領)では、出張理容・美容は「疾病その他の理由により来店できない者」を対象とすることが前提とされており、体調に応じた施術内容の調整は制度上も想定された運用です。医療的な判断は医療機関・訪問看護に、施術内容の調整は理美容事業所に、と役割を分けて依頼することが、当日のトラブルを防ぐ最大のポイントです。
03体調急変時の対応と医療的ケアとの境界線
訪問理美容・出張美容の事業者は、医療従事者ではありません。皮膚に傷がある場合の処置、褥瘡(床ずれ)のケア、点滴ラインの抜き差し、たんの吸引といった医療的な処置は、理美容サービスの対応範囲外です。これらが必要な状態にある場合は、訪問看護ステーションや主治医に相談してください。一方、通常の爪切りや保湿・整髪などの非医療的なフットケア・ヘアケアは対応可能な場合があります(医療的な処置が必要な巻き爪・肥厚爪の切除などは対象外です)。また、施術中に呼吸苦・顔色不良・意識レベルの低下など体調急変の兆候が見られた場合、事業所側は施術を中断し、家族と訪問看護・救急への連絡を優先する対応が基本になります。予約時点で「体調急変時は誰に連絡すればよいか(訪問看護のオンコール番号など)」を家族から事業所に共有しておくと、いざという時にスムーズです。下の表は、依頼前に整理しておきたい「医療者に確認すること」と「事業所に伝えること」の対応関係をまとめたものです。
| 確認する内容 | 確認先 | 事業所に伝える形 |
|---|---|---|
| 施術可能な体勢(座位/臥位) | 主治医・訪問看護 | 「臥位のみ対応可」など具体的に |
| 施術時間の上限 | 主治医・訪問看護 | 「15分以内で」など時間指定 |
| 医療機器の有無(酸素・点滴) | 主治医・訪問看護 | 機器の種類と施術時の注意点 |
| 体調急変時の連絡先 | 訪問看護ステーション | オンコール番号を事前共有 |
| 皮膚状態(褥瘡・傷の有無) | 主治医・訪問看護 | 患部を避けた施術を依頼 |
この整理をしておくことで、事業所も「どこまで対応できるか」を予約段階で判断しやすくなります。
04外見の変化とQOL、アピアランスケアという考え方
終末期には、病状の進行や治療の影響で髪や肌、爪などの外見が変化することがあります。国立がん研究センターは「アピアランスケア」を「外見が変わっても、心地よく生活を送ることができるように行われるもの」と定義し、「外見の変化はQOLに大きな影響を与えることがあり、アピアランスケアは大切な支持療法のひとつ」としています。これはがん患者を主な対象とした情報ですが、終末期における外見ケアの意義を考える上でも参考になる考え方です。身だしなみを整えることは、本人が鏡を見たときの気持ちや、家族・見舞いに訪れる人との対話の質にも影響します。特に看取り期においては、「最後まで本人らしい姿でいてほしい」という家族の思いが、訪問理美容・出張美容を依頼する動機になることが多くあります。事業所を選ぶ際は、単に技術力だけでなく、終末期特有の心理的な配慮ができるか(声かけの仕方、無理に会話を続けない配慮など)も、事前の問い合わせで確認しておくとよいでしょう。
05訪問福祉理美容師など専門資格を持つ事業者という選択肢
訪問理美容・出張美容の中には、高齢者や要介護者への対応に特化した民間資格を持つ理美容師が在籍する事業所もあります。例えば一般社団法人日本訪問福祉理美容協会(JVBWA)は、国家資格保有の理容師・美容師を対象に「訪問福祉理美容師」という認定資格を設けており、対象を「お年寄りや身体が不自由で寝たきりの方、車いすで生活されている障害者の方」などと位置づけています。このほかにもNPO法人全日本福祉理美容協会や日本理美容福祉協会など、同種の民間資格団体が存在します。これらの資格は国家資格ではなく民間団体による認定であり、終末期・看取り期に特化したカリキュラム内容が公開されているわけではありません。そのため「この資格があれば終末期対応も万全」と過信せず、あくまで「寝たきりなど重度要介護者への対応に慣れている可能性が高い」という目安として捉え、実際の対応可否は個別の事業所への確認を必ず行ってください。事業所を探す際は、プロフィールに「訪問福祉理美容師」等の記載があるかを確認しつつ、最終的には電話や問い合わせフォームで終末期対応の実績や配慮について直接尋ねることをおすすめします。
06依頼までの流れと事業所への伝え方
実際に依頼する際は、次の4ステップで進めると当日のトラブルを避けやすくなります。まず(1)主治医・訪問看護に施術の可否と体調上の制限を確認します。次に(2)介護りびようさーちなどのポータルで、寝たきり・要介護度の高い方への対応実績がある事業所を絞り込みます。続いて(3)問い合わせフォームや電話で、体位・時間制限・医療機器の有無・体調急変時の連絡先を具体的に伝え、事業所側の対応可否の返答をもらいます。最後に(4)訪問看護のスケジュールと調整しながら、実施日時を確定します。なお、施術は自費サービスとなり、費用は施術内容(カット・シャンプー・顔そり・フットケアなど)や出張距離によって変動するため、事前に事業所へ見積もりを確認してください。終末期は体調の変動が大きいため、当日キャンセルや時間短縮への柔軟な対応可否も、予約時にあわせて確認しておくと安心です。「対応可能な状態で選ぶ」という視点では、寝たきり・車椅子・認知症といった他の状態別の確認方法も共通する部分が多いため、あわせて確認しておくことをおすすめします。
07費用の考え方と自治体の訪問理美容助成制度
訪問理美容・出張美容は介護保険の給付対象ではなく、原則として全額自己負担の自費サービスです。費用はカット・シャンプー・顔そりなどの施術内容と出張距離によって事業所ごとに異なるため、依頼前に必ず見積もりを確認してください。一方で、多くの市区町村が在宅の高齢者向けに「訪問理美容サービス」の助成制度を設けています。例えば神戸市は65歳以上で理美容店に出向くことが困難な方を対象とした訪問理美容サービスを実施しており、川崎市・横浜市・立川市なども、寝たきりの高齢者や要介護認定を受けた在宅の方を対象に、出張費相当額の助成や利用券(理美容券)の交付を行っています。対象となる要介護度・年齢・交付枚数・助成内容は自治体ごとに大きく異なり、年度によって見直されることもあるため、具体的な条件や助成額はお住まいの市区町村の高齢者福祉担当課で最新情報を確認してください。ここで終末期・看取り期の家族が注意したいのは、多くの助成制度が「在宅で生活していること」を要件としている点です。在宅で看取りを行う場合は対象になり得ますが、入院中・施設入所中は対象外となる制度が少なくありません。また、自治体によっては助成の対象となる理美容事業者が登録制・指定制になっている場合があり、利用したい事業所が助成の対象かどうかも申請前に確認が必要です。手続きの窓口が分からない場合は、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談すると、制度の有無と申請方法をまとめて確認できます。
08家族が日常で行える身だしなみケアと、プロ・医療職に任せる範囲
訪問理美容の予約日以外にも、日々の身だしなみケアを家族がどこまで行ってよいのかは、終末期の介護でよく迷うポイントです。厚生労働省は通知「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」(医政発第0726005号、平成17年7月26日)で、原則として医行為に当たらない行為を例示しています。この中では、爪そのものに異常がなく、爪の周囲の皮膚にも化膿や炎症がなく、かつ糖尿病等の疾病に伴う専門的な管理が必要でない場合の爪切りとやすりがけや、重度の歯周病等がない場合の歯ブラシや綿棒による日常的な口腔ケアなどが、原則として医行為ではないと整理されています。つまり条件を満たせば、家族による爪切りや整髪、保湿、電気シェーバーでのひげそりは、日常のケアとして行うことができます。ただし終末期には、皮膚の脆弱化やむくみ、出血しやすさ、糖尿病などの併存疾患によって、この「条件」を満たさない状態になっていることが少なくありません。家族が行う場合でも自己判断はせず、「今の状態で爪切りをしてよいか」を訪問看護師に一度確認しておくと安全です。役割分担の目安としては、(1)家族は整髪・蒸しタオル・保湿・電気シェーバーなど日常の軽いケア、(2)訪問理美容はカット・シャンプー・カミソリを使う顔そり(カミソリでの顔そりは理容師法上の理容行為にあたり、理容師が行います)などの専門的な施術、(3)巻き爪や肥厚爪の処置・褥瘡周囲のケアなど医療的な対応が必要なものは理美容サービスの対象外であり訪問看護・主治医へ相談、という3層で考えると整理しやすくなります。家族によるケアとプロの施術を組み合わせることで、施術と施術の間の期間も本人らしい身だしなみを保ちやすくなります。
09入院中・緩和ケア病棟・施設入所中に依頼する場合の手順
看取りの場が自宅ではなく、病院・緩和ケア病棟(ホスピス)・介護施設である場合も、出張理美容を依頼できる可能性はあります。理容師法・美容師法では、理容所・美容所以外の場所での施術は原則として認められていませんが、「疾病その他の理由により理容所(美容所)に来ることができない者」に対する施術など、政令や都道府県等の条例で定める特別の事情がある場合に限って出張理美容が認められています。東京都・神奈川県・千葉県などが出張理容・出張美容の取り扱いを公式サイトで案内しているとおり、病院の入院患者や社会福祉施設の入所者への施術は、この特別の事情の代表例です。ただし細かい運用は都道府県等の条例によって異なるため、対応可否の詳細は営業エリアの条例を踏まえて事業所側が判断します。家族側の手順として最も重要なのは、施設側の許可を先に取ることです。病院や緩和ケア病棟では、感染対策や面会ルール、施術場所の制約(病室で行えるか、デイルーム等に限られるか)があるため、まず病棟の看護師長や医療ソーシャルワーカー・相談員に「外部の理美容師に来てもらってよいか」を確認してください。病院によっては出入りの理美容事業者があらかじめ決まっており、外部事業者の持ち込みができない場合もあります。特別養護老人ホームや有料老人ホームなどの介護施設では、施設が定期的に訪問理美容を手配していることが多いため、まず生活相談員やケアマネジャーに既存の仕組みを確認し、看取り期に個別の対応(髪型の希望や家族の立ち会いなど)をお願いしたい場合はその旨を相談するのがスムーズです。なお、前のセクションで触れた自治体の訪問理美容助成は在宅生活を要件とするものが多く、入院・入所中は対象外となる場合がある点も、あわせて確認しておくと安心です。
FAQ
このガイドのよくある質問
Sources
参照・確認する一次情報
制度や費用は変更されることがあるため、公式情報と事業所の資料を確認しながら更新します。
- 在宅の高齢者に対する理容・美容サービスの積極的な活用について(生食衛発0313第1号)
厚生労働省の通知。在宅高齢者への理容・美容サービスがQOLの維持・改善に資すると明記し、実施方法の5パターンを提示。
- 理容・美容(厚生労働省)
出張理容・出張美容の衛生管理要領やQ&Aの一次情報ポータル。対象は疾病等で来店できない者・社会福祉施設入所者等と規定。
- 人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン
厚生労働省が2018年改訂。終末期ケアチームの基本方針として症状緩和と精神的・社会的援助を含む総合的ケアを求めている。
- アピアランスケア(国立がん研究センター がん情報サービス)
外見の変化がQOLに与える影響と、アピアランスケアが支持療法の一つであることを解説する公的情報。
- 一般社団法人日本訪問福祉理美容協会(JVBWA)資格認定制度
寝たきりや身体が不自由な方への対応を想定した「訪問福祉理美容師」認定資格の説明。民間資格である点に留意。
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