外出が難しくなった親の髪は、家族が自宅で切っても構いません。ただし、座った姿勢を保てない、刃物を当てる場所の皮膚が弱い、血液をさらさらにする薬を飲んでいる、切られるのを嫌がるといった状態があるときは、家族だけで抱えずに訪問理美容へ頼む目安になります。

先に、要点をまとめます。

  • 理容師法・美容師法が免許を求めているのは、理容・美容を「業として」行う場合です(理容師法第6条・美容師法第6条)。家族が自宅で身内の髪を整えるのは、日常の身だしなみの手入れとして行われています。
  • 家族で切りやすいのは、背もたれのある椅子にしばらく座っていられて、頭皮や首まわりに傷・湿疹がなく、本人が嫌がらない場合です。どれかが欠けるときは、訪問理美容に相談する目安になります。
  • 全部を家族でやるか、全部をプロに頼むかの二択にしなくて構いません。ふだんは家族が前髪や襟足を整え、伸びて形が崩れたら訪問理美容に頼むという分け方もできます。

「美容院まで連れて行くのはもう難しいけれど、伸びっぱなしにしておくのも気の毒で」。在宅介護をしているご家族から、よく聞く迷いです。インターネットで切り方を調べて、はさみを買ってみたものの、耳の近くやうなじに刃を入れるところで手が止まった、という方もいるでしょう。この記事では、家族が自宅で切るときに先に確かめておきたいこと、切るときの注意、家族カットをやめて訪問理美容に頼む目安を順に整理します。切り方の技術そのものより、「この状態なら家族で切ってよいか」を判断する材料に重点を置いています。

家族が自宅で親の髪を切ってもよいのか?

家族が身内の髪を整えることは、日常の手入れとして行われています。法律が理容師・美容師の免許を求めているのは、理容・美容を「業として」行う場合です。

理容師法第6条は「理容師の免許を受けた者でなければ、理容を業としてはならない」、美容師法第6条は「美容師でなければ、美容を業としてはならない」と定めています(e-Gov法令検索 理容師法・美容師法)。理容師法第1条の2は、理容を「頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えること」と定義しています。

一方で、子どもの前髪を親が切るのと同じように、同居や近くに住む家族が高齢の親の髪を切ることは、多くの家庭で行われています。ここで考えたいのは法律の線引きより、ご本人の体の状態で家族カットが安全にできるかどうかです。高齢の方の場合、若い家族同士の散髪とは違う注意点がいくつもあります。

なお、訪問理美容(出張理容・出張美容)は、病気や要介護状態などで理容所・美容所に来ることが難しい方が対象です。対象の考え方は出張理美容は誰が対象になる?2026年3月の厚労省通知から対象要件を整理で詳しく扱っています。

家族で切りやすいのは、どんな状態のときか?

背もたれのある椅子にしばらく座っていられること、頭皮や首まわりに傷・湿疹がないこと、本人が切ることを受け入れていること。この3つがそろっていれば、家族で切りやすい状態です。

家族カットを始める前に、次の点を確認します。

  • 座っていられる時間:カットだけでも、ケープを掛けてから片付けるまで一定の時間がかかります。ふだんの食事の時間くらい、背もたれのある椅子に座っていられるかを目安にします。途中で体が傾いてくる方は、支える人がもう一人必要になります。
  • 頭皮・首・耳まわりの皮膚:湿疹、かさぶた、治りかけの傷、皮膚が薄くて少しの摩擦であざができる状態がないかを、明るい場所で見ます。
  • 服薬:血液をさらさらにする薬(抗凝固薬・抗血小板薬)を飲んでいる方は、小さな切り傷でも血が止まりにくいことがあります。お薬手帳で確認し、迷う場合は主治医や薬剤師に聞きます。
  • 本人の気持ち:切られることを嫌がる、急に頭を動かす、はさみを怖がるといった様子がないか。認知症のある方は、その日の気分でも受け入れ方が変わります。
  • 耳と補聴器:補聴器を使っている方は、切る前に外し、どこに置いたかを決めておきます。耳の後ろは刃が皮膚に近づきやすい場所です。

引っかかる項目が一つでもあれば、刃物を扱う時間を短くするか、次の章の目安と照らして訪問理美容を検討します。

家族が自宅で親の髪を切るか、訪問理美容に頼むかを判断する流れ。座っていられるか、頭皮や首に傷・湿疹がないか、血液をさらさらにする薬を飲んでいないか、本人が嫌がらないかを順に確認し、すべて当てはまれば家族カット、どれかが当てはまらなければ訪問理美容に相談する。頭皮の異常が続く場合は医療機関に相談する

家族で切るときは、何に気をつければよいか?

明るい場所で、本人が座り慣れた椅子を使い、はさみの先を頭皮や耳に向けずに少しずつ切ります。体調がいつもと違う日は切らずに延期します。

準備と進め方の要点を、刃物の安全と本人の負担の2つの面から整理します。

準備

  • 場所は、窓の近くなど手元が明るく、本人の移動が短く済むところを選びます。床に新聞紙やレジャーシートを敷くと片付けが楽になりますが、端がめくれて足を取られないよう、椅子の下に収まる大きさにします。
  • 椅子は、背もたれとひじ掛けがあり、ふだん座り慣れているものを使います。キャスター付きの椅子は動いてしまうので避けます。車椅子の方は、ブレーキをかけてから始めます。
  • 首にタオルを巻き、その上からケープを掛けます。首を締めつけないよう、指が1本入る程度のゆとりを残します。

切るとき

  • はさみは、刃先を頭皮・耳・首に向けない向きで持ちます。耳の上や後ろを切るときは、もう一方の手で耳を軽く押さえて刃から離します。
  • 一度に短くせず、少しずつ切って全体を見ます。切りすぎた髪は戻せません。
  • 電動バリカンを使う場合は、刈る長さを決めるアタッチメントを付けた状態から始めると、刈りすぎを防ぎやすくなります。
  • 本人が頭を動かしそうなときは、いったん刃物を頭から離し、声をかけてから再開します。

やめるとき

  • 本人が疲れた様子を見せたら、途中でも切り上げます。全体を一度に仕上げなくても、前髪だけ、襟足だけで十分な日もあります。
  • 少しでも皮膚を傷つけたときは、清潔なガーゼで押さえて止血し、血が止まりにくい、傷が深いといった場合は医療機関に相談します。

顔そりは、かみそりの刃を直接肌に当てる施術で、理容師法では理容の業務に位置づけられています。家族が日常のひげの手入れをするなら、刃が肌に直接当たりにくい電気シェーバーを使います。かみそりでの顔そりを頼みたい場合の確認点は、顔そりを訪問理美容で頼むときの確認ポイントにまとめています。

家族カットをやめて、訪問理美容に頼む目安は?

座っていられない、頭皮や皮膚に心配がある、薬で血が止まりにくい、本人が家族に切られるのを嫌がる、家族の負担が続かない。このどれかに当てはまるときが、訪問理美容に相談する目安です。

状態・場面家族カットで起こりやすいこと訪問理美容に頼むときに伝えること
座る姿勢が崩れやすい、ベッド上で過ごす時間が長い支えながら切ることになり、刃先が不安定になる座っていられる時間、車椅子やベッド上での施術を希望するか
頭皮や首の皮膚が弱い、湿疹があるケープやはさみの接触で傷をつけやすい皮膚の状態と、触れないでほしい場所
血液をさらさらにする薬を飲んでいる小さな傷でも血が止まりにくいことがある薬の名前(お薬手帳)
家族に切られるのを嫌がる、認知症で状況が分かりにくい押し問答になり、家族関係の負担にもなる嫌がるきっかけ、落ち着きやすい声かけや時間帯
仕上がりの形が崩れてきた、家族の時間が取れない伸びたまま放置しやすい希望の長さ、定期的に来てほしいか

認知症の方が散髪を嫌がるとき、家族より「外から来た理美容師」のほうがすんなり受け入れられることもあります。進め方の工夫は認知症の方が散髪を嫌がるときはどうする?無理強いしない進め方と訪問理美容という選択肢で詳しく整理しています。寝たきりの方の場合は、寝たきりの方への訪問理美容、当日はどう進む?体位と医療的ケアの境界も参考にしてください。

訪問理美容の費用は介護保険の対象外の自費サービスで、カットの料金と出張費の扱いは事業者ごとに異なります。具体的な金額は見積もりで確認し、仕組みは費用の仕組み|訪問理美容・フットケアは自費サービスで整理しています。市区町村によっては高齢者向けの訪問理美容助成があるため、訪問理美容に自治体の助成はある?対象要件と申請の流れを制度から整理もあわせて確認すると、家族カットと組み合わせる計画を立てやすくなります。

家族カットと訪問理美容は、どう組み合わせればよいか?

伸びて形が崩れたときや、季節の変わり目・行事の前は訪問理美容に頼み、その間の前髪や襟足の手入れは家族が受け持つ、という分け方ができます。

訪問理美容の利用頻度に決まりはなく、本人の髪の伸び方や体調、家計に合わせて決めます。訪問理美容で全体の形を整えてもらうと、その後しばらくは家族が前髪や襟足を少し切るだけで形を保ちやすくなります。間隔の考え方は利用頻度の目安と定期利用の決め方で整理しています。

組み合わせるときに、家族の側で決めておくとよいことは次の3つです。

  • 家族が切るのは、前髪・襟足・耳まわりの伸びた部分だけにするなど、範囲を決めておく
  • 訪問理美容の担当者に「次回までに家族が前髪だけ切ってもよいか」「切りやすい長さに整えてほしい」と伝えておく
  • 本人の様子(嫌がった場面、疲れやすさ、皮膚の変化)を家族が記録し、次の訪問のときに伝える

訪問理美容でも対応していないことは?

口腔ケア、入浴介助、医療的なフットケア(糖尿病の足病変や巻き爪の医療処置など)は、訪問理美容の対象外です。頭皮の湿疹やただれが続く場合も、まず医療機関に相談します。

訪問理美容が担うのは、カット・シャンプー・顔そり・整髪などの理容・美容の施術です。歯みがきや口の中の手入れは歯科医師・歯科衛生士、入浴の介助は訪問介護・訪問入浴、医療的な足のケアは医療機関や訪問看護の領域になります。

頭皮のかゆみ、湿疹、ただれ、ふけの急な増加などが続く場合は、散髪の前に皮膚科やかかりつけ医に相談してください。理美容師は施術の前に頭皮の状態を確認しますが、病気かどうかを判断する立場ではありません。どこまでが訪問理美容で、どこからが医療・介護の職域かは、対象事業者とサービス範囲|医療的ケアとの線引きで整理しています。

この記事で持ち帰れること

  • 家族が自宅で親の髪を切るときは、座っていられる時間・頭皮や首の皮膚・服薬・本人の気持ちの4点を先に確認する
  • どれかに不安があるときは、家族カットを続けるより訪問理美容に相談する目安になる
  • 家族カットと訪問理美容は、範囲を分けて組み合わせられる

次に髪を切ろうと思った日の前に、お薬手帳で血液をさらさらにする薬が入っていないかを見ておくと、家族で切るか、訪問理美容に頼むかを決めやすくなります。訪問理美容を頼む場合の事業者の比べ方は、訪問理美容師・美容師の選び方で整理しています。