先に、要点をまとめます。

  • 電気シェーバーでの毎日のひげの手入れは、家族や介護職員(ヘルパー・施設職員)が担えます。厚生労働省の通知(老計第10号)は、訪問介護の身体介護の例として「髭の手入れ」を挙げています。
  • カミソリで顔全体をしっかり剃る「顔そり」を仕事として行えるのは理容師です。美容師に認められているのは、化粧に附随した軽い程度の顔そりまでです。
  • ひげの部分に傷・湿疹・できものがある、出血が止まりにくい薬を飲んでいるといった場合は、剃る前に主治医や看護職員に確認します。

「父のひげが伸びたままになっている。自分で剃ってあげていいのか、ヘルパーさんに頼めるのか、それとも床屋さんに来てもらうものなのか」。在宅で介護をしているご家族から、こうした迷いを聞くことがあります。爪切りと同じように、ひげ剃りにも「家族や介護職員が日常の手入れとして行う範囲」と「理容師が仕事として行う範囲」があります。この記事では、その分かれ目と、どんなときに訪問理容を頼むとよいかを、通知と法律の条文をもとに整理します。

高齢者のひげ剃りは、誰が担当していいものなのか?

電気シェーバーでの日常の手入れは家族や介護職員が担えます。カミソリでの顔そりを仕事として行えるのは理容師です。分かれ目は「日常の身だしなみの手入れ」か「理容という仕事」かにあります。

介護の側の根拠は、厚生労働省の通知「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」(平成12年3月17日 老計第10号)です。この通知は、ヘルパーが行う身体介護の流れを例示したもので、「身体整容(日常的な行為としての身体整容)」の項目に、手足の爪切り、耳そうじ、髭の手入れ、髪の手入れ、簡単な化粧が並んでいます(枚方市が掲載する通知本文、2026年10月確認)。

一方、理容の側の根拠は理容師法です。第1条の2で「理容とは、頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えることをいう」と定め、第6条で「理容師の免許を受けた者でなければ、理容を業としてはならない」としています(厚生労働省 理容師法概要、条文はe-Gov法令検索で確認)。

つまり、家族が自宅で父親のひげを剃るのは、理容を「業として」行うことにはあたりません。ヘルパーが身体介護として電気シェーバーで整えるのも、通知が例示する日常の整容です。蒸しタオルで蒸らしてカミソリで顔全体を剃り上げる、床屋で受けていたような顔そりを料金を受け取って行うのは理容師の仕事、という整理になります。

ヘルパーや施設の職員に、ひげ剃りを頼める?

頼めます。ただし、電気シェーバーに限るか、カミソリも使うかは事業所ごとの決まりによるため、契約時や連絡帳で確認します。

訪問介護では、ひげの手入れは身体介護の一部として、ケアプランと訪問介護計画に組み込まれていれば対応してもらえます。「毎朝のひげ剃りを手伝ってほしい」という希望があれば、ケアマネジャーに伝えて計画に入れてもらいます。ヘルパーが来る時間に合わせて、本人の電気シェーバーを洗面所など決まった場所に置いておくと、毎回の準備が短くすみます。

施設やデイサービスでも、職員が整容の一環としてひげを整えている事業所があります。誰が、カミソリと電気シェーバーのどちらを使って、どの頻度で行うかは事業所が決めているため、「ひげ剃りはどなたが、何を使って、どのくらいの間隔でしていますか」と一度尋ねておくと、家族が持ち込む道具も決めやすくなります。

入浴のついでに浴室でひげを剃る場面もありますが、これは入浴介助の流れの中で行われるものです。入浴介助は訪問介護・訪問入浴の職域で、訪問理容の事業者が行うものではありません。

美容師に、ひげ剃りを頼める?

しっかりひげを剃りたい場合は、美容師ではなく理容師に頼みます。美容師が行えるのは、化粧に附随した軽い程度の顔そりまでとされています。

美容師については、昭和23年の厚生省の通知(衛発第382号)で「化粧に附随した軽い程度の『顔そり』は化粧の一部として美容師がこれを行ってもさしつかえない」と示されています。2018年には、美容師による顔そりサービスについての照会に対し、厚生労働省が「『軽い程度の顔そり』を超えた場合には、その行為は理容に該当する」と回答しました(経済産業省のグレーゾーン解消制度の回答を掲載した資料、2026年10月確認)。

訪問理美容の事業者には、理容師だけ、美容師だけ、両方が在籍、と複数の形があります。「訪問カット」と書かれていても美容師だけの事業者では、男性のひげをしっかり剃る依頼には対応できないことがあります。資格による施術範囲の違いは理容師・美容師の資格で確認することで整理しています。

家族が電気シェーバーで剃るときは、何に気をつける?

本人が座って顔を上げていられる時間に、明るい場所で、肌の状態を見てから剃ります。シェーバーは本人専用にして、ほかの人と共用しません。

家族が毎日の手入れをするときに確かめたいのは、次の4つです。

  1. 姿勢:椅子や車椅子に深く座れているか、ベッドなら上体を起こして頭が安定しているか。顔が動きやすい状態のまま刃を当てない
  2. 肌:ひげの生えている部分に、傷・かさぶた・湿疹・赤み・できものがないか。あればその部分は剃らない
  3. 道具:シェーバーの刃とヘッドに、ひげくずや汚れがたまっていないか。使ったあとは説明書どおりに掃除する
  4. 共用しない:シェーバーやカミソリは本人専用にする

4つ目には根拠があります。厚生労働省は、ウイルス肝炎の感染を防ぐ日常の注意として「歯ブラシ、カミソリなど血液が付く可能性のあるものを共用しない」と案内しています(厚生労働省 ウイルス肝炎について(一般向け)、2026年10月確認)。家族のシェーバーを借りて剃るのは避け、本人用を1台用意します。

本人が自分で剃れる部分があるなら、そこは本人に任せ、剃り残しやすいあご下や鼻の下だけを家族が手伝う形にすると、本人の「自分でできること」を残せます。家族が髪を切る場合の注意点は、高齢の親の髪を家族が切るときは?で整理しています。

本人がひげ剃りを嫌がるときは、どうする?

その日は無理に剃らず、本人が落ち着いている時間帯に、短い時間で区切って行います。嫌がる理由が音や振動なのか、顔に触れられることなのかを見ておくと、次の工夫を選べます。

認知症のある方は、顔の近くで刃物や機械の音がすることを怖がる場合があります。剃る前に「ひげを整えますね」と声をかけ、シェーバーを本人の手に一度持ってもらってから始める、片側のほおだけで終える日があってもよいとする、といった進め方なら、本人の負担を小さくできます。毎日きれいに剃り上げることより、嫌な経験として残さないことを優先します。

家族やヘルパーが剃ろうとすると嫌がるけれど、長年通った床屋の顔そりなら受け入れられる、という場合は、訪問理容の日に整える回数を増やし、間の日は伸びすぎた部分だけを整える分担も考えられます。散髪そのものを嫌がる場合の進め方は、認知症の方が散髪を嫌がるときの無理強いしない進め方で整理しています。

肌や持病の状態で、先に医療職へ相談したほうがよいのはどんなとき?

ひげの部分に傷・湿疹・ただれ・できものがある、出血が止まりにくくなる薬を飲んでいる、顔のまわりに医療機器のチューブがある、といった場合は、剃る前に主治医や看護職員に確認します。

ひげ剃りは刃を肌に当てる手入れです。肌に異常があるところを剃り続けると、状態を悪くすることがあります。皮膚の異常は理容師や家族が判断するものではなく、皮膚科や主治医、訪問看護を利用していれば看護師に見てもらいます。

服薬については、薬の名前が分かるお薬手帳を用意し、出血に関わる注意がある薬かどうかを主治医か薬剤師に確認します。訪問理容を頼むときも、この情報を事業者に伝えておくと、カミソリではなく電気シェーバーで対応するといった方法を選んでもらえます。

在宅酸素療法の鼻カニューレや、経管栄養のチューブを顔に固定しているテープがある方は、剃る範囲がその近くにかかります。チューブがずれたときに誰が何をするかは、在宅酸素療法・経管栄養がある方の訪問理美容の当日で場面ごとに整理しています。

なお、介護りびようさーちの対象は、理容・美容と非医療の身だしなみケアです。医療的なフットケア(糖尿病の足病変や巻き爪の医療処置など)、口腔ケア、入浴介助は対象外です。足の処置は医療機関・訪問看護、口腔ケアは歯科・訪問歯科、入浴介助は訪問介護・訪問入浴に相談してください。境目の考え方は対象事業者とサービス範囲|医療的ケアとの線引きにまとめています。

訪問理容を頼むのは、どんなとき?

カミソリでしっかり剃ってほしいとき、行事や面会の前に整えたいとき、家族の手入れでは剃り残しや肌荒れが続くときが目安です。散髪と一緒に頼めば、1回の訪問ですみます。

ここまでの内容を、相談先を選ぶ流れとして図にまとめます。

高齢者のひげ剃りの相談先を選ぶ流れ。ひげの部分に傷や湿疹がある、出血しやすい薬を飲んでいる、顔のまわりにチューブがある場合は、まず主治医・看護職員に確認する。問題がなく電気シェーバーでの毎日の手入れなら家族・ヘルパー・施設職員が担う。カミソリでしっかり剃りたい場合は理容師が在籍する訪問理容に頼む

場面ごとの相談先は次のとおりです。

場面相談先の目安確認しておくこと
毎日の手入れ(電気シェーバー)本人・家族、ヘルパー、施設職員誰がいつ行うか、本人専用の道具
カミソリで顔全体を剃りたい理容師が在籍する訪問理容理容師が来るか、肌と服薬の情報
化粧の仕上げに産毛を軽く整えたい理容師または美容師どの程度まで整えるか
傷・湿疹・できものがある皮膚科、主治医、訪問看護剃ってよいか、避ける範囲
出血が止まりにくい薬を飲んでいる主治医、薬剤師剃り方や道具で気をつけること

床屋に長く通っていた男性にとって、蒸しタオルとカミソリの顔そりは慣れ親しんだ時間でもあります。毎日の手入れは家族や介護職員の電気シェーバーで続け、散髪のときに理容師の顔そりで整える、という分け方もできます。頼むときの確認事項(理容師が来るか、肌と服薬の伝え方、仕上げのケア)は、顔そりを訪問理美容で頼むときの確認ポイントにまとめています。

この記事で持ち帰れること

  • 電気シェーバーでの毎日のひげの手入れは、家族やヘルパー・施設職員が担える。カミソリの顔そりを仕事として行うのは理容師
  • 美容師が行えるのは化粧に附随した軽い程度の顔そりまで。ひげをしっかり剃るなら、理容師が在籍するかを確認する
  • 傷・湿疹がある、出血しやすい薬を飲んでいる、顔のまわりにチューブがある場合は、剃る前に主治医や看護職員に確認する

まずは、今ひげ剃りを誰が、何を使って、どのくらいの間隔でしているかを書き出してみてください。ヘルパーや施設に任せる部分と、理容師に頼む部分の分け方が見えてきます。